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紀行 〜長野県高山村・藤井荘〜

 前回のメンエスネタが不評につき、ひよこ編集長から出禁を言い渡された身分ではありますが、ここは乾坤一擲、王道の紀行ネタで捲土重来を期してみたのでございます。3000いいねが出禁解除のノルマということで、それでは張り切ってまいりましょ〜〜〜〜(空元気)!!!!!

 将棋の藤井聡太八冠が、七つ目のタイトルである名人位を獲得したのは、奇遇にも「藤井荘」という名の温泉旅館だったというのは、将棋ファンでなくともご存知の方は多いのではないだろうか。

 まだ名人戦終局の余韻も残る昨年9月、特に将棋が好きというわけでもない私だが、将棋とメンズエステが大好きな友人に誘われてその藤井荘を訪れる機会を得た。わざわざ高い金を払って他人の趣味に付き合うのには当然ながら理由がある。今回の場合、藤井荘への「アクセス」がそれだった。

 長野県上高井郡高山村という、マイナーにもほどがある地(失礼!)にある藤井荘へは、東京駅から北陸新幹線で長野駅まで行き、そこから長野電鉄と長電バスを乗り継ぐ必要があった。その長野電鉄がちょっとユニークで、小田急10000形列車(平たく言うと「古いロマンスカー」です)を導入しているのだという。とくれば、そりゃあもう、乗ってみたくもなるでしょう、このビッグウェーブってヤツに(何か違う)。

 木(将棋)と鉄(軽度)、異なる利害が偶然にも一致し、我々は北陸新幹線に乗っていざ藤井荘へと向かった。勢い余ってか、お昼前には長野駅に到着した我々。時間にまだかなりの余裕があったため、長野市内を少し観光してみることにした。まずは駅ビル内に設置されている巨大なアルクマ(長野県のPRキャラクター)像とツーショットで記念撮影。うーん、アルクマきゃわえぇ〜。

「牛に引かれて」ならぬ「バスに揺られて」善光寺参り。

 東京から来た2名の成人男子は、アルクマとの熱いフォトセッションの後、長野市民の冷たい視線に追われるように駅ビルを後にすると、逃げるようにバス乗り場からバスに乗車し、終点の「善光寺大門」で下車した。その後も反省の色を見せず、地元で評判の洋菓子店のカフェで美味しいスイーツを満喫したり、八幡屋礒五郎の本店でお土産を物色したり、門前の売店でアルクマのピンバッジを買ったり、善光寺で御朱印をもらったり、胎内めぐりの暗闇でキャーキャーと叫んだりと、テレビ東京の旅番組のような時間を過ごす(確認ですが「男二人旅」です)。

 そうこうしていると、あっという間に結構な時間が経過。藤井荘のある山田温泉行きのバスの時刻まであまり余裕がない。地方の路線バス故に便の本数は限られており、バスの乗り遅れはすなわち「死」を意味する。慌ててバスの乗り換え駅である須坂駅を目指して旅の移動を再開させることに(あ、その前にお土産屋さんでアルクマの小銭入れも買いたい!)。

 善光寺からバスで長野電鉄の始発である長野駅に戻っても間に合いそうではあったが、近くに「善光寺下」という駅があるようなので、そこまで駆け足で移動する。こういう時、後戻りするのはなんとなく心配なのであった。だが、これが旅の目的として大失敗。ロマンスカーの車両は「特急」限定なのだが、到着してみると善光寺下駅には「各駅停車」しか停まらなかったのだ。

 自らの致命的な悪手に、王座戦第4局終局直前の永瀬王座(当時)のように、頭を激しく掻きむしりながら後悔しつつも時既に遅し。結局、数分後にやってきた都営新宿線そっくりの味もそっけもない電車に乗って須坂駅へと向かったのだが、天下の善光寺の最寄駅に各駅停車しか停まらないという矛盾には、旅の最後までどうしても納得がいかなかった(「善光寺まで脊髄反射でバス移動しておいてよく言うわ!」という指摘は敢えて無視したい)。

ちなみに座席は小田急時代と異なり「完全自由席」なのだそう。

 ただ、幸いにも須坂駅で下車した際、別のホームにお目当てのロマンスカーが停車していた。こういう時はやはり日頃の行いがモノを言うのだろう。地元民をマイルドに威嚇しながら蹴散らすと(というか地元民には珍しくもなんともないので、一瞥もせずに改札へ向かったというのが正しい)、ここぞとばかりに記念撮影を開始する。いやぁ、昔のロマンスカーはいつみても近未来SFチックで実によろしいなぁ。撮影を終えて改札を抜けると、今度は駅のコンコースにも鉄分やらローカル色やらがふんだんに滲み出ており、ここでもバスの出発時間まで空気感をたっぷりと満喫した(念のためですが、私の鉄分は「軽度」です)。

所狭しと並べられたローカル商品と鉄道グッズ。

 目的地の藤井荘に着く前に旅の目的を完遂してしまった私は、バスの車内では既に燃え尽きて虚無状態に近かった。だが薄れゆく意識の中、長野県の高山村といえば、大学時代に片想いだったあの子の出身地ということを思い出した。そうだ、旅はまだ終わっちゃいなかったのだ。急に目が覚めた私は、ふと車窓からの景色に目をやった。自然豊かでのどかな田園風景がそこには広がっていた。素敵な空気と美しい大地は、人もまた素敵に美しく育てあげるのだなぁ、としみじみ。

 途中、バスは「高山小学校」という停留所に差し掛かる。彼女もおそらく学んだであろう母校の前をバスが通過する瞬間、何かこう、胸に甘酸っぱいものが込み上げてくるなぁ…と思ったら、それは青春の思い出でもなんでもなく、自分の体内を逆流してきた胃液だった。どうやら山道でカーブが多く、不覚にも車酔いをした模様。

藤井竜王の封じ手は「9五歩」。

 胃酸の香りとともに到着した山田温泉は、想像通りのウルトラレトロな温泉街だったが、藤井荘はその街の雰囲気とはかけ離れた超ハイスペックな高級温泉旅館だった。さすがは名人戦の対局場になるだけのことはある。

 チェックインしてすぐ、同行者はロビー階に飾られていた名人戦の封じ手を見て大満足の様子。そんなこんなで、夕飯前には二人とも旅の目的を果たしてしまい、しばし虚無の状態で温泉に浸かって旅の疲れを癒した。その後のことは夕飯時に酒を飲み過ぎたせいかまったく覚えていない……。

 翌日はバスの出発時間が都合悪かったため、宿からタクシーで隣町の小布施町へと向かった。栗の産地としても有名なこの地では、前日からちょうど新栗のシーズンが始まったというので、人気のケーキ店に並んで和栗のモンブランに舌鼓を打ったわけだが、男二人のスイーツ食べある記などニーズがないのは百も承知。そこは割愛して潔く本稿を投了することとしたい。

 なお、投了図以下は次の通りとなっております…

www.fujiiso.co.jpwww.fujiyaheigoro.com

shop.yawataya.co.jp

obusedo.com

【アクセス】

長野電鉄長野線「須坂駅」より長電バス「山田温泉」バス停下車

 

寄稿:大塚

X:@rrhjrs