神奈川県の横須賀市に私を惹きつけて止まない街がある。名前は「衣笠」という。訪れたきっかけは忘却の彼方に消えてしまって久しいが、週末に横須賀周辺のハイキングコースに足を運んだ際、勢いが余ってこの魔境に踏み込んでしまったというのが真相で違いないだろう。
初めての土地を訪れたら、私はまず商店街を歩いてみることにしている。商店街を歩けば、その街のだいたいの事情が見えてくるからだ。言い方は悪いが「終わっちゃってる街」の商店街は「整骨院」「葬祭場」「安酒場」の割合が異様に多い。そして、その隙間を埋めるかのように「携帯ショップ」と「ファストフード店」が点在している。仕上げに「デイサービス」と「100均ショップ」あたりがあれば完璧だ。
衣笠の商店街も歩いてみれば、そんな感じの終わっちゃってる感をそこそこ醸し出してはいるものの、チェーン店よりも昔ながらの個人商店が結構頑張っており、そんな個人商店からタラタラと滲み出る、ゾンビのようなしぶとい生命力にこの街ならではの魅力を感じているのかも知れない。
住所は間違いなく横須賀なのに、海軍カレーも、横須賀バーガーも、スカジャンもない衣笠。NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」ブームに乗りたくても、なんか上手く乗れなかった衣笠。無人販売の冷凍餃子が美味しかったけど、よく見たら地元のお店の餃子じゃなかった衣笠‥‥。最後に私が愛して止まないこの街の訪れるべき名店を紹介し、本稿を閉じることとしたい。
所謂「町のお肉屋さん」で、コロッケをはじめとした揚げ物が充実している。学校帰りの制服姿の女子高生が、この店のコロッケを食べながら商店街を歩く様子はエモくてたまらないと思うのだが、一度もそんな光景を目にしたことがないのが残念。
港町・横須賀らしいナウい名称の喫茶店。各種スパゲティやオムライス、ハンバーグといった喫茶メシも充実。この店でおしゃべりに夢中な女子高生の集団を見かけたらエモいと思うのだが、一度もそんな光景を目にしたことがないのが残念。
およそ衣笠らしからぬ今風のイケメン店主の看板が印象的な和菓子屋さん。店主はTVチャンピオンR[和洋菓子職人選手権]優勝者で「菓道宗家」を名乗る街の誇り(多分)。デーハーな店主に反して、お菓子のほうは素朴で美味しかった。
「ハーバーライト」のお隣にある大衆酒場。席数はなんと132席! 店内のみならず、価格まで昭和レトロ感が漂う良店。初デートでお相手の人間性や価値観を知りたいなら、サイゼよりもこちらのお店のほうが効果的かも知れない。
「ザ・ノンフィクション」に出てきそうな、体格の良過ぎる訳ありチックな母娘の集団が占拠する店内は、都内のマクドナルドのそれとはかけ離れた、もはや異空間の趣。余談ですが、アルバイトに1名ほどモデル級の美人さんがいるのを確認しております(2023年9月時点)。
【アクセス】
JR横須賀線「衣笠駅」下車
京急バス「衣笠駅」バス停下車
寄稿:大塚
X:@rrhjrs