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愛車と一緒に逃避行

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愛猫が病に倒れたのは去年の春だった。すでに手の打ちようがなく、約半年間の闘病生活を経て先代の猫たちの元へ旅立った。

 

 

この半年間はとても苦しかった。可憐で綺麗好きな元来の姿から、毛艶が無くなり出来ることが減り甘えることすらままならない状態へと変わっていく。顔に穴が開き膿が溢れると、嫌がる猫を抱いて洗浄するしかない。申し訳なさと情けなさで一杯だった。


そんな精神的に限界が近かった私は猫の亡くなった後の世界を想像することにした。幸いにも免許はある。ついでなら大型自動二輪も取ってしまおう。鼻を鳴らして寝てる猫の横でツーリングマップルを開く。東西南北それぞれの方向への計画を立てている時は、現実感が薄れて気持ちも楽になった。

 

 

そんなこんなで愛猫を先代たちの元へ見送り免許も取得出来た。その勢いのままバイクを売買し旅に出る準備は整ったのだ。


最初の旅は大菩薩ラインを経由して静岡へ向かった。鷹の湯でバレルサウナを楽しみ、富士山由来のキンキンに冷えたバナジウム天然水を全身に浴びる。道中はとても楽しい、しかし家に帰ると猫の姿を探してしまう。


2回目は伊豆半島だ。宿泊先は猫のいるライダーハウスに決めた。夜中も廊下を警備している猫の気配に懐かしさと寂しさを覚えた。

 


単なる旅とは違い、逃避行と銘打つことで、どんなに遠くに行ってもソレはチューインガムのように背中に引っ付き私を元の場所に引き戻してしまう。引き戻される引力に一種の懐かしさや払拭される孤独感があるが、結局背中を向けた事実は変えられないのである。

子供の頃、好きな娘にちょっかいを出してしまったように、既に居ない愛猫の気でも私は引きたいのだろうか。


もうすぐ大型連休がやってくる、何処へ行くかはまだ決めてないがその時には胸を張って、「これは旅だ」と言えるのだろうか。

 


猫の居ない、初めての春がやってくる。

 

寄稿:ぶっころりー

X:@bukko_sauna