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紀行 〜富津市鋸山〜

曰く言い難い微妙なフレーズで彩られた鋸山の山頂標識。

 鋸山は、千葉県富津市と安房郡鋸南町に跨る標高329.5メートルの山である。かつては「房州石」と呼ばれる石材の石切場として栄え、大量の石が切り出されたことにより、山頂付近がノコギリの刃のようにギザギザした形になったことが、その名前の由来だと言われている。

 さて、私がこの鋸山を訪れることになったのは、鋸山の存在以前に「久里浜ー浜金谷間」を結ぶ東京湾フェリーに乗ってみたかった、という実に安直な動機からであった。フェリーに乗るついでに、どこか面白そうな観光スポットはないかと調べた結果、初めてこの鋸山の存在を知ったのである。

フェリーの船室にはテレビも設置されてあるが、ゆっくり観ていられるほどの時間はない。

 ちなみに、その際に検索で見つけた鋸山の案内マップは実に良く出来ているので、読者のみなさんにはこんな駄文に影響されることなく、こちらで鋸山の魅力を正しく知っていただきたい。

nokogiriyama.jp

 鋸山は登山道だけでなく、約10万坪もの境内を持つ日本寺なる寺院も存在し、ここには「地獄のぞき」「千五百羅漢」「百尺観音」「大仏」などの見どころが盛りだくさんである。登山以外にもさまざまな楽しみ方があり、麓から山頂までのロープウェイも設置されているので、休日となれば老若男女さまざまな観光客で賑わっている。心なしかマイルドヤンキー層が多い気がするのは、千葉という土地柄のせいなのか。

www.nihonji.jp

 初めて鋸山を訪れた時のことだ、私は危うく命を失うところであった。とはいっても、派手に滑落したとか、デカい落石に見舞われたというような登山チックな理由ではない。ロープウェイで山頂まで上がり、広い日本寺の境内を上から下へと降りていくうちに、「このまま徒歩で下山したほうが早いんじゃね?」と思いつき、帰りのロープウェイ料金をケチってそのまま徒歩で下山したところ、ロープウェイ乗り場の真反対側に降り着いてしまったのである。

 そこからフェリー乗り場のある金谷港までは、歩道のない狭く長いトンネルを3つ抜ける必要があり、なおかつそのトンネルは千葉ナンバのートラックが上り車線も下り車線も猛スピードで絶え間なく走っているという、文字通りの高難度ダンジョンだった。いや、難易度的にはもはや「クソゲー」と言っても過言ではないほど。

 私はこの時、生まれて初めてトンネルの入り口に「歩行者用押しボタン」がある光景を目の当たりにした(これを押すとトンネルの入り口に「トンネルの中にバカな歩行者がいるから注意してね!」的な表示が出るらしい)。さすがに写真を撮る余裕はなかったので、現地がいかに危険な場所だったのかは、Wikipedeiaのこちらの項で確認していただきたい。

ja.wikipedia.org

 体の数センチ先を何台もの大型トラックが掠めるように走り抜けるという恐怖を体験すること約1時間。命からがらで辿り着いた金谷港から久里浜行きのフェリーに乗り込み、船内の売店で買ったイワシバーグと缶ビールの味は格別で、今も忘れることが出来ない文字通りの「思い出の味」となったのである(それはそうと、トンネルの途中でママチャリに乗って爆走する中年女性の姿を目撃した記憶が今も頭から離れない。あれは極限の状況下で見た幻だったのだろうか?)。

 ということで、最後に私が愛してやまない鋸山のおすすめスポットを紹介して、本稿を閉じることとしたい。

 

・猫丁場

よく見ると、猫が赤い毛糸玉で遊んでいるという芸の細かさ。

登山道の「車力道コース」の途中にある分岐から100メートルほど先にあるスポット。かつての不真面目な職人が仕事をサボって岩肌に猫を彫った跡が残っている。近くには岩肌がハートにくり抜かれている、いかにもな映えスポットもあるが、こちらは現代人の手によるものなので騙されてはいけない。

 

・石切場の鯉

「錦鯉」なだけに、早く良い相方に恵まれて欲しいものである。

 石切場に出来た人工的な水たまりに、なぜか大きな錦鯉が一匹悠々と泳いでいる。自分がこの鯉だと想像したら結構な絶望感に襲われること必定だが、所詮は魚なので、当の鯉は置かれた環境のことを深く考えてはいなさそうなのが救い。テレビ東京の人に知られると池の水が全部抜かれるかも知れないので、あまり広めないでおいていただきたい気も。

 

・百尺観音

タリバンに見つかったら破壊されるかも知れない。

 日本寺の境内に入ると最初に目に飛び込んでくるのがこの巨大な磨崖仏。すごいことはすごいのだが、日本寺の拝観料は700円とかなり強気の価格設定なので、本来はこの程度で満足してはいけない気もする。写真のことをよくわかってないキャピーな女子たちが、この足元に立って磨崖仏と一緒に写真に収まろうとするのだが、どうやっても一緒の構図には収まり切らないので、スマホ片手に四苦八苦している様子はここでは当たり前の風景である。

 

【アクセス】

JR内房線「浜金谷駅」下車

東京湾フェリー「金谷港」下船

寄稿:大塚

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