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「有名人」の定義とは?


 寓居の前に白金高輪駅が出来たころの話だ。街頭で、めかしこんだ中年の女性に「この辺で有名人とか、ご覧になったことはありませんか?」と訊かれた。よく遇う(遭う?)街頭インタビューかと思ったが、カメラも照明も見当たらない。

 「例えばプライベートで歩いているところを見掛けたとか、有名芸能人がロケをやっていたとか、そういうことはありませんか?」… なんだ、おのぼりさんじゃない。そもそも有名人の定義が判らない。

 この人にとって芥川賞作家は有名人だろうか。病気でTVを観られないので、モーニング娘。なんて、独りでいたら私は判らない。ここで村松友視先生の『作家装い』を思い出し、要するに、この人が有名人だと思える人に会えればいいのだと思って演技をした。

 「私のこと、ご存じありませんか?」「あの… 何をやっている方なのですか?」「私のことを… ご存じない?(演技として怒気を含ませて)」「いえ、あの… (居ても立っても居られない様子)」「私のことを知らないのはモグリですな」

 可哀想なので、この辺で解放してあげましたが、編書2冊というのは、有名人と言い切ってしまってもアリではないのか… などと思う次第だった。

(「三田文学News Letter」2010年4月20日号に発表したものを改題・一部訂正したものです。)

 

 

今回の寄稿者:ふぉんと (𝒇𝒐𝒏𝒕)

精神病闘病ブロガー

 

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