写真と文

誰でも参加自由。メンバーが共同で作る WEB 同人誌

紀行 〜番外編・我が家の給湯器交換奮戦記〜

 番外編だと言い繕ったところで「紀行」でもなんでもないのだが、先日、我が家の給湯器が壊れたお話をしたいと思う。

 それはある日のこと、突然給湯器のスイッチが入らなくなった。まあ、結構な期間使用していたモノなので、壊れたこと自体にはさほど不満はなかった。ただ、突然お湯が使えない生活を強いられることにはさすがに参った(そういう意味では、能登地方の被災者の皆さんは、本当にご苦労されているのだなと改めて感じる。非力ながらもせめて1日も早い復興を祈るばかりだ)。

 さて、そんなキビシー状況ではありながらも、近所のスポーツジムに入会しているので、月曜以外はジムの風呂が利用できる。この日はあいにくとジムが休館の月曜日だったが、運の良いことにちょうど美容院の予約を入れていたというファインプレーも。「なにも絶望の淵に沈むほどの状況ではないぞ」と心を落ち着かせ、気合の水シャワーで身を清めてから、まずは予約の時間に颯爽とした足取りで美容院へと向かった。

 カットとシャンプーおまけにヘッドスパでスッキリした後は、いよいよ本腰を入れて行動を開始せねばなるまい。こういう場合、賃貸住宅であれば管理会社へ連絡すれば、あとはすべてお任せでオールOKなのだろうが、あいにくと我が家は持ち家である(エヘン!)。一国一城の主たるもの、すべては自己責任なのだ。よって、給湯器の修理や交換といったスケールの小さな問題解決にも、御自らが最前線へ出陣せねばならぬ(しかも費用は自腹ときたゾ)。

 城主はまず、肝心の給湯器の様子を確認することに。自宅の裏手に回ると、古びた給湯器本体の内部からは水がぽたぽたと漏れ、さならがら歴戦の勇士…いや瀕死の落武者といった感じの、素人目にもどう考えたって修理でどうにかなる状態ではなかった。そこで、買い替え前提で給湯器メーカーの正規代理店をネットで調べることにした(修理ではなく買い替えの場合、メーカーではなく正規代理店のほうが本体価格が安くあがるとかあがらないとか)。

「〇〇区 給湯器 交換」

 検索すると、いろいろな会社のサイトが見つかった。いつもは妙な胡散臭さしか感じない検索のおすすめ広告枠だが、こういう時だけはやけに頼もしく思えるから不思議。

生まれ変わった我が家の給湯器リモコン。最新技術の粋がここに結集している。

 いくつか候補が挙がった中で、一番フツーだと思える名前の業者を選択する。こういう時、よく見かける「〜のお助け隊」とか「〜の110番」とか「愛と正義の〜屋さん」みたいな軽いネーミングの業者はなんとなく苦手なのだ(深い意味はない、ただ本当になんとなく)。

 コミュ障にも優しいWebでの申し込みも出来たのだが、時は一刻を争う状態なので、フリーダイヤルの電話申し込みをする。こういう時は電話のほうが細かい説明もしやすいし、何より話が早いと思ったからだ。

 しかし、電話に出たオペレーターに要件を話しても、さして具体的な話を訊かれるでもなく、「では、今から30分から2時間以内に、専門スタッフから折り返しお電話差し上げます」との悠長なご返事。それじゃあWeb申し込みとスピード感かわらんやんけ。

 待つこと90分、ふとスマホを見ると着信の通知が入っていた。どうやら先方から電話があったようだが、不覚にもスルーしてしまったようだった。だが、それも仕方がない。自分のスマホに着信があることなど年に数回もないのだから。で、慌ててこちらから折り返すも、当の専門スタッフは別の電話に対応中ということで、再度の折り返しを待つことに。なんと間の悪いことか。

 だがしかし、存外早く折り返しの着信が入った。ところがである、前述の通りスマホの着信を滅多に受けることがない、逃亡中の桐島聡よりも孤独な人生が災いしてか、緊張のあまり「受信拒否」赤いアイコンをタッチしてしまうという痛恨のミス。時は一刻を争うというのに……ったく!

 祈る気持ちで二度目の折り返しを入れると、そこでなんとかお目当ての専門スタッフに繋がった。改めて要件をイチから話すと(最初のオペレーターとのやりとりは何の意味があったんだ)、「壊れた給湯器の写真を撮って送ってくれ」とのこと。え、あの、私、午後からは職場に出ちゃってるんですけど。ていうか、それ、専門のスタッフじゃないと言えないような高度に専門的なことですかね?

 仕方がないので、翌日の朝イチに写真を撮ってWebのフォームへ画像データをアップすることに。これで半日、いや今日1日がまるまるパーとなってしまった。しつこいようだが、時は一刻を争うというのに……ファック!

 翌朝、給湯器の写真、配管の写真、室内のリモコンの写真を撮って業者へと送る。ほどなくして専門スタッフ様からの着信が入ったので、今回は落ち着いて緑の受信アイコンを押して電話に確実に完璧に出る。すると今度は「作業現場までの給湯器の搬入ルートを写真に撮って送れ」と言われる始末。

「いやもうキミたち、昨日のうちに下見に来てた方が早かったんじゃないのか?」

 幸い、朝イチから行動していたので、この日はまだ出社する前だった。トゲトゲした本音をグッと飲み込むと、再びスマホ片手に給湯器の搬入ルートを入念に撮影する。もしかすると通りがかりの人には、大胆な空き巣の下見にしか見えなかったかもだが、そんなことは気にしている場合ではない。何度でもいうが、時は一刻を争うのだ!

 搬入ルートの状況次第では、工事が引き受けられないと言われる可能性もあったので、面接後の就活生のようにドキドキしながら返事を待った。数分後、搬入には支障なしとの返事をもらい、ようやく無事に翌日の工事の段取りが整う。

 工事の当日は、作業員の「壊れるはずがない」ハズキルーペが壊れるという、信じがたいアクシデントはあったものの、概ね作業は順調かつスムーズに運んだ。専門スタッフから「およそ2時間から3時間かかる」と言われていた作業は、気がつくとアッサリ1時間ほどで終わった。このスピード感、どうして申し込みの段階から出せなかったのかね。

名作「ボクは きゅうとうき」の表紙。泣かせますぜ、コイツ。

 作業の間、特にすることもない私は、作業員から渡された冊子に目を通していた。冊子といってもカタログや説明書などの類ではなく、なぜか「給湯器くんが主人公の絵本」だった。しかし、これが実によく出来た内容で、これまで頑張って湯を沸かしてくれていた我が家の古い給湯器くんに、心から感謝の念が湧いたほどだ。多感なお年頃であれば、もしかすると涙していたかも知れない。

 ちなみにその絵本によると、引き取られた古い給湯器くんは、分解後リサイクルされて新たな金属製品に加工されるのだという。これまで暑い日も寒い日も、雨の日も雪の日も、屋外で人知れずこき使われてきた給湯器くんなだけに、来世はもっと恵まれた環境で働けるシャレオツな金属製品に生まれ変わってもらいたいと思った。いいか給湯器くん、もう二度と給湯器なんかに生まれてくるんじゃないぞ!

 ということで、最後に「イザという時にもしかしたら頼りになるかもしれないしそうでもないかもしれない給湯器交換サイト」を紹介し、この駄文は終わりにしたいと思う。みなさんもこの機会に、ご自宅の給湯器くんの働きぶりに思いを馳せてみてはどうだろうか。

home.tokyo-gas.co.jp

www.kyutooki.com

www.u-doctor.com

kyu-to.com

 

寄稿:大塚

X:@rrhjrs