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僕らは一体いつまで桜を愛でることができるのだろうか

ソメイヨシノのこと

高遠

 2月も下旬にさしかかった今、突然真冬のような寒さになった。23日の東京は八王子辺りで小雪が舞い、平野部でも雪の予想が出ている。この寒さで桜の開花はどうなるのだろう?

 2月初旬の桜の開花予想は、例年より早く去年よりは遅いというものだった。20℃を超える暖かい日があったのに去年より遅いというのは意外に思う人も多いかもしれない。桜は一度強い寒さを経ることで開花の準備を始めるため、寒い日の少なかった今年はその準備ができていなかったためだ。

 桜は春に散った後、夏ぐらいまでには花芽を完成させ、それから長い眠りにつく(花芽は完成しているため狂い咲きが起こることがある)。やがて冬の強い寒さで目覚め、つぼみを膨らませる。これを「休眠打破」と呼ぶ。休眠打破から日中の最高気温の累積温度が600℃になると開花すると言われる。

 今回の寒さで休眠打破は完成したと思われるが、時期的にはかなり遅い。ただし、今後20℃を超えるような温かい(暑い)日が続けば、早く咲くこともありうる。

 気候変動(温暖化)が進んだことで今後も暖冬が続くことだろう。その結果、休眠打破がうまくいかないことも多くなるだろう。

 花芽の休眠は葉から供給される休眠ホルモンによるもので、葉がすっかり落ちた冬はこのホルモンは供給されないため、休眠打破が起こらなくとも、狂い咲きと同じメカニズムで花は咲く。しかし、一本の木で一斉に咲くということや地域で一斉に咲くということは減っていくだろう。やがては冬の頃から4月ぐらいまで、あちこちでまばらに数輪ずつダラダラと咲くということになってしまうかもしれない。

 

河津桜のこと

河津・上条の桜

 ソメイヨシノより一足早く、2月ぐらいから見頃を迎える河津桜(カワヅザクラ)。その発祥の地である静岡県河津町ではその時期、町の真ん中を流れる河津川沿いを中心に桜が咲き誇る。その風景も大きく様変わりするかもしれない。

 1997年に河川法が改正され、その翌年に、河川法に基づいた植樹基準(「河川区域内における樹木の伐採・植樹基準について」)が示された。河津川沿いの桜の多くはこの基準を満たさない。直ちに伐採などの必要はないが、あらたに同じ場所に植樹することはできない。河津桜の寿命は60年程度といわれ、河津川沿いではそろそろその寿命を迎える老木も多い。実際に、「河津桜守人」という地域の団体の調査によれば、全体の約7割において樹勢劣化や病斑、枝の障害があるという。

 さらに2013年の「静岡県第4次地震被害想定」においても、河津川河口部では、想定される津波に対して高さが不足している。

 こうした問題に対し、河津町は、河津川沿いに集中する桜をより広い地域に分散させる「線から面へ」の施策などを実施しつつある。そのことで観光客の分散化も図ろうというのである。

 ただし、樹木を中心とした景観は、見てもらえるようなものになるまでにはかなりの時間がかかる。また、経済効果は高いとしつつも、その整備費用についてはあまり明確なものが見えない。ワークショップなどをなんとなくやりつつ、なんとなくブランド化を模索するといった、町おこしのありがちな状況になっているようにも感じられる。また、ソメイヨシノと同様、気候変動の影響からは逃れられない。

 見に行くことができるならば、できるだけ早く行った方が良いというのが今のところの最善のアドバイスかもしれない。

 

 桜は日本の比較的長い伝統の一つではあるが、案外あっさりと、私たちの目の前でなくなってしまうのかもしれない。私たち自身も少しだけその戦犯としての責任を分かちながら。

 

寄稿:エスペラ

X:@proten2199