歯医者に行く準備が整ったから煙草を吸った。
乳歯が抜け始めてから数年…生まれて初めて歯に強い違和感とか痛みとか食べたものがソコに詰まるようになったのは右上の、奥歯よりも少し前の歯が最初かな。夕ご飯を食べ終わると詰まりを除去するのに大人ぶって楊枝を使っていた。
けっこうな大きい穴が空いていた。
詰まりやすいというよりは、そこにハマル感じ。
その歯は結局時間と共にグラグラしてきて毎日繰り返し引っ張ったり、指でつまんでゆらしていると抜け取れてしまった。
子供だったが、次の日の朝早くにひとりで庭へ出て家の屋根へ向かって抜けた歯を投げた。そんなことをする迷信がまだあった時期。
小学校4年の時だったか友達のスケボーを借りて、アラレちゃんに登場するスッパマンの真似をしていた。路面はアスファルトなので当然に小石がスケボーの前輪にハマリ急ブレーキがかかり私の体だけ押し出される形になった。顔面はアスファルトに強打しあまりの衝撃と痛みで感覚を失っていたが、直ぐに何が起きたか理解し家へ駆けこみ洗面所の鏡を見た。前歯2本がちょうど真ん中を、分度器の形をくり抜いたように割れていた。鼻と上唇の間も擦り剥き血が滲んでいた。
「もう女子とキスできない…」
と直感で思った。
その後、高校1年生の時にキスはできた。
割れた前歯を修復するために、かかりつけの歯医者で相談してみたところ…
『これは出来ないね』
と当時の歯医者は呟いた。
それから約25年後くらい、酒を酌み交わす知人歯科医から紹介された先輩歯科医が割れた前歯の治療を引き受けてくれ無事に歯っかけの修復が完了した。数十年振りに前歯が当たり前の形をしているのを鏡でみると不思議な気分になった。嬉しかったのか、直ぐに親と姉にショートメールで知らせた記憶がある。
前歯の修復を担当してくれた歯科医に信頼を置いたのか、その時点での治療可能なところは全てまかせた。夏の時期にはストレスからか奥歯の歯茎の辺りが膿、手術が必要と予測された時期もあった。しかし、夏の終わりには繰り返された薬の投与が功を制したのか切らずに治療が終わった。
そんな昔のことをいつも歯医者へ行く前になると思い出す。
田舎に戻りかかりつけの歯医者をまた探さなければいけない時間と苦労を考えると嫌な気持ちにもなったが運よく1件目の歯医者で好みにあった治療をする巡り合わせがあった。田舎に生まれ、東京に出たことで生意気になり、田舎の医療を少なからず軽視してしまっていたが本当に運が良く1件目で通いたい歯科医に出逢えた。
「助かった。」
こちらに通うようになり3年が経過するのか、受診始めはサボっていた歯医者通いの蓄積、定期健診に間を空けてしまっていたので少し虫歯等の治療が必要だった。一度として好きになれない歯科での治療は常に胸の内で思う。
「自分が悪い…」
と思うしかなかった。
そこから治療完了、今回は半年期間を空けてからの定期健診だった。
結果は特に異常なし。
「胸をなでおろした。」
若干、下の歯、奥、裏側などに歯石がたまりやすいという指摘以外はなかった。
無事にクリアできたことは嬉しい。治療するために通うことにはならずホッとした。
治療後の会計を済ませ、レジ前に陳列されているこちらの歯科医推奨の歯ブラシ、歯磨き粉を数点購入して帰路へ。
家へ辿り着き。
ベランダで煙草を吸った。
寄稿者:TaNuma
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