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時間の余白、静謐の海辺、鎌倉の朝

忙しい日常。
ありふれた言葉ではあるけど、実際に的を射た言葉だと思う。
やらなきゃいけないこと、やりたいこと、やるべきこと。
限られた時間に対して、常に世の中は過大なタスクを求めがちだ。
放っておくと、全ての時間がタスクに消費されてつくしてしまう。

 

では、どうするか。
日常を離れ、非日常な場所でなら自分の時間を過ごせるのではないか。
能動的に自分のための時間を作るのである。

 

さあ、旅の時間だ。

センチメンタルジャーニー

いつから、旅を楽しむために必須なものに「余白」が加わった。
限界まで予定を詰め込んだラリーのような旅も味わい深いが、旅を楽しむなら予定に「余白」を用意しておきたい。


旅での余白とは空き時間のことで、つまりは何もしない時間だ。
余白を持たせることで、当日の自分の気持ちの合わせて、予定をフレキシブルに変えることができる。


気になるものがあれば、見に行けばよい。
前の予定が楽しければ、延長してもよい。
余白があることで、旅はもっと自分らしく楽しめる。

自分が楽しみたいものを、もっと楽しみたい。


そして、冬の古都 鎌倉はそんな余白が似合う街でもある。

ブログ友達と東京駅で待ち合わせ、一路鎌倉へ。

 

 

時間の余白

冬の一泊二日の旅だが、お互いにリュックサックのみの身軽な格好がよい。

 

鎌倉のありがたいところは、東京から電車で1時間ほどの距離にも関わらず、非日常感が味わえるところだ。
夏に比べると冬の鎌倉は、適度な人出で活気が感じられる。


予約してある昼食には、まだ時間が早いので小町通を抜けて、鶴岡八幡宮手前の「腸詰屋」へ。
ブリッとしたジューシーなソーセージと鎌倉のクラフトビールを手軽に楽しめるお店だ。

非日常の友は、何を置いてもビールであろう。
楽しい旅となることを祈りつつ、湘南ビールと大仏ビールで乾杯。
空っぽのお腹にソーセージとビールを速やかに格納し、昼食へ向かう。

 

「鎌倉海鮮や」地物の海鮮や野菜が手軽に楽しめる食堂兼居酒屋だ。
近くの会社で働いている人の横で昼食を食べられるのが、地元感があって楽しい。
メニューで散々悩んで、鎌倉名物が食べられるお互いに「彩海鮮丼」と、アジフライをシェアすることに。

海鮮丼には湘南名物の生しらす・釜揚げしらすがぎっしり乗っており、さらにタコやサーモン、いくらも楽しめるのがうれしい。
そして、アジフライはサックサクの衣と肉厚ジューシーなアジを熱々で食べられる。
ふわっとしたアジの身は、タルタルソースやウスターソースの旨味と相性がよく、それぞれ1匹つづが一瞬でお腹に収まった。

 

このあとは、友達が気になっていたドーナツ屋と本日の宿を目指して、鎌倉の街を歩く。
鎌倉駅から海の方を目指して歩いていくと、観光客向けの店から徐々に魚屋や総菜屋などにお店が変わっていく様子に、自分達が地元民のような感覚になる。
住宅街の合間に、ぽつりぽつりとあるカフェや古着屋も楽しい。

12月の鎌倉は吹く風は冷たさを感じるものの、晴天に恵まれて歩いているとじんわり汗ばむほど。
「鎌倉の住所はカッコいい名前が多いので、自分の住んでいる場所に移植するならどこにするか?」という世界一どうでもいい雑談をしているうちに、第一チェックポイントのドーナツ屋さんに到着。
「べつばらドーナツ」は、鎌倉のメインストリートから、少し離れた場所で営業しているドーナツ屋だ。
一度に入店できる人数も2名ほどの小ぢんまりした感じが愛らしい。

 

静謐な海

ドーナツを買ったら、再び海を目指しながら歩き始める。
そして、20分ほどで材木座のビーチに到着。
当然、シーズンオフなので海水浴客は皆無だがサーフィンを楽しむ人や、散歩する人などで以外にも海岸は賑わっている。
ぼーっと海を見ながら1時間ほどを海岸で過ごす。

友達とお金をかけずに過ごせる場所は、自宅以外にいくつあるだろう?
東京では、何をするにもお金が必要になるけど鎌倉の材木座は、海岸に座って景色を見ているだけで十分楽しい。

午後の太陽が材木座の海に反射して、キラキラと光っている様子を見ながら1時間ほどの時間を過ごした。

今回宿泊する予定の「亀時間」は材木座のビーチにほど近い古民家改装のゲストハウス。
鎌倉で暮らすように、のんびりした時の流れを味わえる亀時間は、今回の旅にぴったりの宿だろう。


亀時間では2名1室、四畳半の部屋を予約。
ドミトリーから廊下を挟んで、お庭が楽しめる部屋だ。

 

夕方になって冷えてきたので、石油ファンヒーターをつける。
ジー……ボッという音と共に熱風が噴き出す様子が実家感があって楽しい。
灯油の燃える独特の匂いも懐かしく、畳の部屋ということもあり、空気は実家の「あの」感じである。

一人暮らしをしていて、久しぶりに実家の自分の部屋に戻ったときに感じる空気に近い。

自分の定番の居場所のような、それなのにちょっと慣れていないような。

そんな独特の感じも旅の非日常として楽しい。

 

作業をしたり買ってきたドーナツを食べたり、畳の部屋を満喫している内に夕食の時間。

場所は亀時間の近くにある燻製ダイニング「燻太」だ。
自宅を改装した(たぶん)お店で、燻製料理とクラフトビールが楽しめる材木座のダイニングである。

鎌倉がシーズンオフなこともあり、貸し切り状態での夕食となった。
口に入れた瞬間、スモーキーな風味がかんじられる鯛やサバ、とろとろチーズが堪らないグラタンなどを味わう。
20代の頃は、どこへいっても同じメニューが食べられるチェーン店がよかったが今は、その場所ならではのものが味わる個人店の方が楽しい。
時間とともに、自分の物事への感じ方の違いが分かるのも旅の楽しみだろう。

夕食後には鎌倉唯一の銭湯へ。
レトロな銭湯が味わい深く、それが材木座によく似合う。
しっかりと温まった後は、近くのドラッグストアによって夜食を買って亀時間へ戻る。

早く寝ようといいつつ、結局は修学旅行のように日付が変わるまで話し込んでしまった。

 

鎌倉の朝

前日に朝日を海に見に行く約束を果たすため、6時30分に起床&海へ出発。
5時くらいに一度起きて、二度寝したらこの始末である。
正直、三度目する自信もあるが、確実に朝日は見えないので頑張って起きる。

早朝の材木座の海岸は静謐で、聞こえてくるのは波の音のみ。
ちょうど山の陰になって日の出自体は見れないが、朝日が海岸を照らす様子が楽しめる。
うっすら暗い海が、朝日によって黄金色に染まっていく様子が楽しい。
こういう普段は見れない形式を見ると、本当に「旅してるなー」と思う。

軽く海岸を散歩してお腹を空かせたら朝食の時間である。
朝食はサラダ・スープ・パン・ヨーグルトの定番かつ間違いのないセット。
フリードリンクコーナーには、コーヒー豆も常備されているのがうれしい。
ハンドミキサーを使って豆を挽いて、コーヒーを入れたら準備完了だ。
自分では絶対面倒くさくて用意しないレベルの朝食が食べられるのも、旅行ならではの醍醐味であろう。

朝食を楽しんだら、昼食まで海岸線を散歩する。
片道1時間ほどの距離を、ゆっくりと歩く。
途中で富士山が見えたり、ウィンドサーフィンの組み立てを見たり、漁師小屋を見たり。
特別なものは何もないけど、全部が特別に感じられる。
ここでも、たっぷりと時間の余白を楽しむことができた。

今回の旅のフィナーレともいえる昼食は古民家を改装した「月と松」だ。
注文した日本酒がシャーベット状になって升に入って出てきた時点で、もう優勝である。
シャリっとした食感と豊かな風味の日本酒の味わいが新鮮で、ついつい飲みすぎて(食べ過ぎて?)しまう。
続く料理も繊細な見た目と味わい、そして大胆な盛り付けとガツンとしたうま味が楽しめる。

アラカルトやデザートも楽しんで、2時間ほどの昼食を終えた。

 

昼食を終えて、材木座から鎌倉駅を目指す。

特に決めていた分けではないが、月と松から鎌倉駅まで徒歩で向かう。

旅が終わってしまうメランコリックな雰囲気も無く「また来たいねー」という闊達な空気管で終えられる旅は良い。

たっぷりと時間に余白を持って楽しんだ、鎌倉の朝や静謐な海辺の思い出を反芻しならが、鎌倉駅から電車に乗った。

 

観光らしいことは一切なく、食べて海を見て散歩をして帰ってきたのが今回の旅だ。

ただ、好きなことを好きなようにできる時間は、1年間に何回あるだろう?

大抵はやらなきゃいけないことに押しつぶされてはいないだろうか。

 

「たいせつなのは、じぶんのしたいことをじぶんで知ってるってことだよ。」

ムーミンに登場する旅人、スナフキン言葉だ。

限られた人生の時間の中で、何をしたいか。

ともすればセンチメンタルになってしまう問いかけに対して、まだ回答は無い。

ただ、また「じぶんのしたいこと」で悩むことがあれば、再び材木座の海辺に訪れようと強く思う。