写真と文

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みんな個展をひらくべきだし、みんな自伝を書いてから死んでほしい

あなたは何歳のときまでお誕生日会を開いていただろうか?

 

子どもの頃は、誕生日を祝ってもらったり、友達の誕生日を覚えていたりしたかもしれない。でも大人になるにつれて、徐々に誕生日なんて特別なものではなくなっていった。誕生日のことを思い出すのは、Facebookが知り合いの誕生日を通知してくれるときぐらい。自分の誕生日すら忘れていることもしばしば。

 

 

 

そんな中で、私は時折、誕生日を口実に個展をひらくという生き方をしている。

 

これまで3回、誕生日前後に個展をひらいた。初めて個展をひらくまでは、個展とは才能あふれる芸術家や写真家しかできないものだと思っていた。私は芸術を生業としていないし、芸術の勉強をしたこともない。フツーの人でも個展をひらいていいんだよと教えてくださったのは、iPhone写真家の若杉アキラさんだった。若杉さんの写真はとても素敵なのだけど、すべてiPhoneで撮影されている。素晴らしい機材や華々しい賞を持った人しか個展をひらいてはいけないという固定概念を覆してくれた。最後の一押しは、私が個展をひらいたら絶対行くから、観客0にはならないという言葉だった。その言葉を信じて第1回の個展をひらき、すっかりその楽しさに目覚めてしまったのだ。

 

個展の魅力は、自分が属するあらゆるコミュニティの人が、同じ空間に集うことだ。アンパンマンとドラえもんとクレヨンしんちゃんとちびまるこちゃんが、一堂に会しているような、不思議で楽しい時間。そこで起こる偶然の出会い、奇跡の会合。今回の個展でも、たまたま同じタイミングで来た初対面の知人同士が意気投合し、インターネットでやりとりする予定だったことが、その場で一瞬で解決した。

 

そして何より、個展というのは自分の創作物を通して、自分が生きた証をおすそわけしているのだと思う。私はいつも個展で自主制作の本を販売している。それを見た知人の一人が、「ボクも自伝を書いているんだ」と言った。その人は80代で、「今のうちに書き残しておきたいことがある」と話していた。私自身、その人の人生について聞きたいことがたくさんあり、時間がどれだけあっても聞き切れないと思っていた。だからその人の人生について、その人の声が残ることは嬉しかった。本を作ることは、命を吹き込むことだと思う。

 

個展をひらいた別の知り合いが「個展は人生のご褒美タイムだ」と言っていた。本当にそう思う。みんな好きなときに来て、好きなだけおしゃべりして、好きなだけ創作物を眺めて、好きなタイミングで帰る。何事にも替え難い、ゆるやかで豊かな時間だ。

 

 

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***

 

 

そんな風に、個展の余韻に浸っていたある日。スマホを何気なく見て、目を疑った。知り合いが末期癌で、余命半年と宣告されたというのだ。しかも体調はすでに良くないらしく、「今は穏やかに過ごしたい」と書かれていた。

私はてっきり、5月の新緑の季節になったら、その人とお茶摘みに行けると思っていた。それを叶えたいと思うのは、自分のエゴなのだろうか。悲しさとともに、ふと考えた。そもそも、自分だって100%その人より長く生きるという保証はどこにもない。だったら、その人にできることも、私にできることも、今を精一杯生きることだけなのかもしれない。

 

その知り合いは、体調の良いときにはSNSに近況を投稿してくれる。その言葉の中に、こんなものがあった。

「何も急いでやらなくていいって思えるのって、すごく楽で心地よいです。」

最近あまり話していなかった知人が会いに来てくれたりして、「人生のボーナスタイムのようだ」とも書いていた。SNSの投稿という小さな自伝を読んで、私は不思議な気持ちになった。結局、人生というのは、捉え方次第でいつだってご褒美タイムであり、ボーナスタイムなのではないか。何か特別なことが起こったときだけが、かけがえのない時間なのではない。日々、自分が生きているだけで、すでに貴重で、すでに特別で、すでに愛おしい時間なのだ。

 

 

***

 

 

だから、私は思う。

みんな自分の感じたこと、作ったもの、考えたことを、もっと自由に表現してほしい。個展をひらいてもいいし、文章を書いてもいい。自分が生きた証を、形にしてほしい。

そしてたまにちょっとおすそわけしてほしい。みんなで一緒に眺めて、話して、食べて、面白がりたい。お金や地位は天国には持っていけないけれど、こんな思い出は持っていけそうな気がしている。

 

 

 

みんな個展をひらくべきだし、みんな自伝を書いてから死んでほしい。

だって人生は、すでにとっても特別なのだから。

 

 

 

 

 

寄稿者:地図子

まちなみ冒険家。地理・歴史・地学を使ってプチ冒険すれば、面白くない場所なんてない。川・暗渠・用水・湧水・井戸ポンプ・灯台・狂気ぶた・飛び出し坊やなど、なんの意味があるのかわからないものを収集しています。

「写真と文」では、普段自分のブログには書かないような「生きること、死ぬこと、それでも生きること」のようなテーマで、自由に書かせてもらいました。今までありがとうございました!

 

地図子ブログ:ふと思い立って、プチ冒険

 

 

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