このまえ正月を迎えたと思いきや、もうすっかり通常モードで基本色灰色の日常を過ごしているほし氏です。ところで、写真と文のメンバーであるゆきにー (id:yuki_2021)さんが、去年の11月、Amazonにて『オンミョウ・デザイア』という小説を発売されました。これはめでたい。
私と同世代の方が、仕事もこなしつつ、こうして自己実現をされているのを見ると心が熱くなる。よっしゃ自分もやってやるぞ〜と思うのですが、そう考えるだけで一向に何もせず、ついついBIGカツなんかを食べてしまうのが私の弱さだ。そりゃどうでもいいとして、さっそく本書を購入。正月休みに鴨川シーワールドのトドの如くごろごろしながら読破しましたが、爽快な読み応えでした。
ぜひとも書評をまとめたいと感じ、また、それをどこへ投稿しようか迷いましたが、様々な才能の交差点であるこちらが一番いいんじゃないかと思い至りました。ということで、今回は『オンミョウデザイア』の書評、などというと少々烏滸がましい気もしますが、読んだ感想をまとめさせていただきます。
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まず、『オンミョウデザイア』のあらすじをAmazonのサイトから引用させていただくと、
『陰陽師ユーチューバー!? 現代日本で繰り広げられる神々の謀略と、少女たちの運命――』
安倍晴明の血を引く名門・土御門家に生まれながら、陰謀論系ユーチューバーとして活動する土御門美弥。 自意識過剰で思い込みの激しい彼女が、神々の集う出雲で目撃したものとは……。
11月、神在月の出雲。 全国から神々が集まるこの特別な場所で、選ばれし者たちの新たな物語が幕を開ける。
根神玲と真輝。二人の少女が背負う「選ばれた子供」と「人柱」という宿命。 そして、その運命に絡み合う天津神と国津神の勢力争い。 神道、仏教、陰陽道――日本の精神文化を司る三つの力が交錯する中、 陰謀の糸は着々と紡がれていく。
前作「イヌガミギフテッド」からの宿敵・石動夕夜も姿を現し、 物語は新たな局面へ。 現代の技術と古の秘術が交差する境界の中で、 少女たちは己の使命と向き合っていく。
と、なります。ネタバレを防ぐため、この先はあらすじ以上の内容には触れず、私の感じた印象をまとめさせていただきます。
まず、読んでいて「会話が生きている」と感じました。登場人物の会話が生き生きとしていれば、それだけで読み進めるモチベーションとなります。当たり前じゃないかと思うかもしれませんが、それが当たり前じゃない。会話がつまらなくて読み進めるのを断念した小説がいくらでもありますから。会話のつまらなくなる特徴として、「小説の内容を登場人物に代弁しすぎる」というのがあります。特にSFやファンタジー小説に多いのですが、その世界の成り立ちや、時系列的な出来事、現在の状況といったものを、登場人物の口を借りて延々としゃべらせるパターンが多いです。何ページにも渡り、理路整然と説明してくれる要領の良すぎる人。そんな人が現実にいますか。いません。
現実でも会話は断片的で、中途半端です。だからこそコミュニケーションとして鮮やかな印象を残す。また、断片的だからこそ、会話で伝わらなかったことが登場人物の内面描写として吐露されたり、具体的な行動に結びつくのです。「オンミョウデザイア」もまた、それぞれの登場人物の背景的な事情が異なります。立場が違えば主張も異なる。それが決定的と判断すれば、バトルとなる。そんな衝突までに起きる様々なイベントはとても王道的で(多少、展開が読めてしまう部分もあるのですが)、小気味よい印象があります。それを彩るのが登場人物たちの生き生きした会話です。会話を追うだけでも楽しい。
それから、この小説の読み応えに繋がる重要な要素として、歴史との相関があります。古代と現代が地続きであり、日本神話の神々や、安倍晴明といった人物が一同介してストーリーに溶け込んでいるのは、私のような古代好きな人間からするとリッチな体験です。現代的なイベントに神々が参加しつつ、玲や真輝や美弥といった主要人物と等身大的な関わりがあるのは面白い。フィクションではあるけれど、「神が生身で顕現する」のならば、こんな感じになるんだろうなと、腑に落ちるようなリアルさもまたあるのです。超常的な力を抑えてフォーマルに対応する神々が微笑ましい。
さらに物語へ没入する上で大事なのが、登場人物それぞれがもつ価値観でしょう。具体的にいえば「守りたいもの」でしょうか。「オンミョウデザイア」では、これが明解であることが読み応えに繋がっていると感じます。主人公と敵対する相手の理念も筋が通っているわけです。結局のところは皆、この世界を守りたいと願っているのだけど、皮肉なことに主人公勢がいちばんイレギュラー的な要素を抱えている。主人公側が理(ことわり)に反逆し、結果、保守勢力に狙われる。これもまた王道中の王道的な展開ですが、上手くストーリーに落とし込まれていると思いました。読んでいて面白かったのが、仏の側よりも神の側の方が、だいぶ融通の効く発想をするんですよね。
最後になりますが、もうちょっとこうだったらいいな〜と思ったこととして、地場的な描写をもっと盛り込んで欲しかったかな、と。実際に旅行で現地を訪れ、取材された成果を感じられはするのですが、それが故か、舞台が少々狭く感じます。もっとロケーションを飛び回っても面白そうですが、これは神々が関わるお話ですから、その場所にまつわる歴史的な背景情報を小説の展開に落とし込む必要も出てくるでしょうし、ちょっと複雑になりますね。
今回の舞台は神在月の出雲。シチュエーションとしては出雲大社が舞台となり、神が勢揃いする儀式に沿う形で話が展開していくので、ロケーションが限られていても特に気になりませんでした。神が各地へ戻っていった今後、また新しい舞台を設定されると思います。玲、真樹、美弥たちが、神域を巡る軽やかな冒険が展開されるのをまた期待したいところです。すいません、長々と書きましたが、この辺で終わりたいと思います。
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ちなみに、私が住んでいるところに安倍晴明と関わりの深い神社があるんですよ。
福島稲荷神社です。建立したのが安倍晴明と伝えられています。風水的に彼の目に適った場所だったようですね。ここにもし美弥たちが来る展開になったら熱いよな〜とか勝手に妄想しました⛩️
寄稿:ほし氏
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