子どもの頃、近所の個人経営のレストランで外食するのが好きだった。
「あじさい」というお店で、私は毎回エビグラタンと食後のデザートにオレンジのシャーベットを頼んだ。
母は「主婦の休み」だと喜ぶ。
あじさいは自宅から徒歩圏。
古めのマンションの1階のテナントに入っていた。昔あの場所にそんな素敵なレストランがあったことなど、古くからの住民でないと知らないのだろう。
個人経営の洋食レストランだ。
テーブル席に座ると自慢げにいつものメニューをわくわくして、頼んだことを思い出す。
熱々のできたてのチーズとろけるエビグラタン。小学生にとってはお腹いっぱいの中、次はと贅沢にもデザートのオレンジのシャーベットをお願いする。
冷たくて口いっぱいにひんやりとした清涼感が広がる。
ついつい微笑みが出る。
もうあのわくわくと美味しさに会いに行けないと思うと大人になった今でも、どこかとても寂しいのだ。
温かい料理と、ご夫婦の暖かい笑顔が数十年経つが忘れなられない。
あのご夫婦は今頃、どこで何をしているんだろうか。
もしも何かの縁でこの文章を読んでいてくれたら、それ以上の喜びはない。
ありがとう、あじさい。
忘れないよ。
※念の為、店舗名は変更しています。
筆者 くろこ
Twitter @knk_i11