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滝沢馬琴と葛飾北斎の歴史も学べる映画【八犬伝】

 響く作品を観ると目が潤む。三味一体でその瞬間だけ訪れる別世界。

主役:滝沢馬琴を演じた役所広司、葛飾北斎を演じた内野聖陽、馬琴の妻(百)扮する:寺島しのぶ。この御三方で描くシーンが前半に2回程ある。そこはミュージカルの舞台か喜劇の一コマか…綺麗に切り抜くことが出来る御三方だけでのやり取り。アドリブではないのだろうが印象強く残るシーンだ。秒で過ぎ去る上質な間。

 

 南総里見八犬伝という名前は幼少の頃より聞いたことがあった。それがどういったものであったかは調べるほどの見識は持ち合わせていなかった。いまの言葉で表現すればその名を知ってからも直接作品に手を触れることはせずにバイアスがかかり己の解釈のみで時が過ぎた。なんとなく”犬”が関連することだけは大きくはずれてはいなかったようだ。現代の漫画やアニメ作品に多大な影響を与えたであろう古代のファンタジー小説。

 滝沢馬琴が【八犬伝】筋書きを脚本を読むかのように葛飾北斎へ語る。都度そのイメージは映像化され若手俳優陣で構成された【八犬士】で映される。特殊映像も加え周りを固めるのは名バイプレイヤー達が顔を覗かせていた。一石二鳥、一遍に二つの作品を楽しめるかのように描かれている。滝沢馬琴がイメージする【八犬伝】ファンタジー小説の中と、滝沢馬琴と葛飾北斎が生きた時代の生活。

 始まるや否や情報量の多さに食らいついていく必死さが最高兆のまま後半まで引き続くので若干スタミナ切れを起こす作品だ。これは映画館で観るからこその醍醐味であり、自宅の環境では感じない高揚だろう。

 当然のごとく豪華キャストの面々、ヒール役のメインは玉梓を演じた栗山千明。御の字だが、私の注目は【船虫:真飛聖】お歯黒で陰湿な継母。表情は流石であり存在感と敵としてのいやらしさは群を抜いていた。

 

 歴史の振り返りとしてもこの作品は楽しめる。滝沢馬琴の良き友として描かれた葛飾北斎。誰もが知る北斎の【富獄三十六景】私はこの画の名前の意味、由来を知らなかった。確かに納得のなんともそのままのことなのだ。小さなことかもしれないが目から鱗だった。加えて話が映画の前半には戻るが滝沢馬琴と葛飾北斎がそれぞれの家族、子育て感をディスカッションしあうシーンがある。そこには嬉しくも葛飾応為が当然話題となり、とても短いシーンだが葛飾応為の描写もあり和む。

 

 【南総里見八犬伝】を滝沢馬琴の作品として成立させるまでに約二十八年の時が流れたそうだ。そんなこととはいざ知らず。創作の裏側には感慨深い物語が詰め込まれていた。

 

寄稿者:TaNuma

tanuma.hateblo.jp